立ち食いそばの新店が生んだ次代の看板メニュー「パイカ」!神田っ子の胃袋をつかんだ小川町『豊はる』の煮込み豚バラ軟骨
コロナ禍の間に多くの立ち食いそば店が閉店する一方、空いたテナントで新たな商売を始める店も多く見られた。今回、紹介する『豊はる』もオープンは2023年の1月。新陳代謝の激しい時期に、勝負に出た新進気鋭の立ち食いそば店だ。
有名店『豊しま』から独立
『豊はる』があるのは、神田小川町。都営新宿線の神保町駅と小川町駅の中間ぐらい、靖国通りをちょっと入った、五十通り沿いだ。飲食店が並び、オフィスも多い。立ち食いそば店をやるには、なかなか良い立地だ。
店の看板には「是れはうまい! 肉そば 関東風」と書かれている。この文言にピンときた立ち食いそば好きは多いだろう。
これは肉そばで有名な『豊しま』の看板に書かれているもの。『豊はる』は、『豊しま』で働いていた西村さんが独立して始めた店なのだ。
豊しま春日店
住所:東京都文京区小石川1-5-1 文京ガーデンノーステラス1F/営業時間:7:00~18:00(土・祝は7:00~15:00)/定休日:日/アクセス:地下鉄三田線・大江戸線春日駅から徒歩1分
『豊はる』店主の西村さんは、チェーンのラーメン店で10年働いた後、居酒屋で働きながら2019年から『豊しま』で働き始める。最初は『豊しま』江戸川橋店、次に春日店だったそうだ。そのときから自分で立ち食いそば店を目指していた。
「ラーメンよりも、気軽に食べられる、庶民的な立ち食いそばが好きだったんです。ラーメン店では、本部で統括の仕事をするようになって、現場で働きたかったというのもありました」
時間をかけて小川町にいい物件を見つけた。しかし、いかに好立地とはいえ、新しい店が必ずうまくいくとは限らない。肉そばを全面に押し出したことで、開店当初から『豊しま』ファンが多く訪れたが……。
しかし、「新しい店をやるなら、オリジナリティを出したかった」と西村さん。
そこで始めたのが「パイカ」だ。
新たな看板メニュー
パイカは豚のバラ軟骨のこと。そのパイカを圧力鍋で煮て柔らかくした後に、味つけしたものを乗せたパイカそばを出したところ、大いに受けた。当初は『豊しま』から受け継いだ「肉そば」と「厚肉そば」が注文数のツートップだったが、今ではパイカが一番になったという。
とろっとしたパイカは一見、ヘビーそうだが、食べているとしょうががふわっと香り、意外にあっさりしている。ツユと合わせても旨味が過多になることなくちょうどいい。柔らかく煮られたパイカを玉子に絡めて食べれば、さらに奥行ある味わいになる。これは確かに『豊はる』の看板になるメニューだ。
オリジナリティにこだわり
オリジナリティについては、そのほかも力を入れている。天ぷらは自家製でこそないが、かき揚げ以外にあじ、いか、丸ちくわ、紅しょうがとそろえ、とろろやわかめ、大根おろしもあり。麺もそばとうどん以外に、冷やし用のそばときしめんをそろえている。
『豊しま』はそばうどんと、肉と厚肉、かき揚げとストイックなメニュー構成だが、こちらのメニューは幅広い。
また、その月おすすめのメニューもやっている。取材した2023年11月は「牛バラ肉そば」だ。
たっぷりと盛られた牛バラ肉は牛肉特有の匂いは抑えられ、むしろ上品な味わいで、ツユにもよく合う。大きく「肉そば」とうたった看板に負けていない。
オープンから10か月。常連さんはしっかりとついていて、開店から店じまいまで、客足が途切れない店となった。当初は『豊しま』の力もあったのだろうが、今では新たな看板のパイカが『豊はる』を引っ張っているのは、間違いないだろう。
豊はる
住所:東京都千代田区神田小川町3-11/営業時間:6:30~18:00(土・祝は6:30~15:00)/定休日:日/アクセス:地下鉄新宿線小川町駅から徒歩6分
取材・撮影・文=本橋隆司
本橋隆司
大衆食ライター
1971年東京生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て2008年にフリーへ。ニュースサイトの編集をしながら、主に立ち食いそば、町パンなど、戦後大衆食の研究、執筆を続けている。